長くインターネットの第一線で活躍する起業家・けんすう(古川健介)氏とジヘン編集部の対談を、前編に引き続きお届けします。平成のインターネットの思い出を、お楽しみ下さい。

前編はこちら!

『2ちゃんねる』がTVで紹介されるのが衝撃的だった

井上 : 『オンラインの羊たち』は1巻以降、恋愛、青春というものがインターネットと結びつくようになっていくのですが、当時のけんすうさんの青春とか恋愛にもインターネットは絡んでいたりしましたか?

けんすう : 『2ちゃんねる』に書き込みして、そこの運営の人と遊ぶということが多かったですね。今でも仕事を一緒にしている人とかいます。

井上 : インターネットのやりとりをきっかけに、交流するようになったということですか?

けんすう : 2000年とか、2001年頃ですね。

井上 : 私達くらいの世代になると、ほとんどの人が『電車男』(注:2ちゃんねるへの書き込みを基にしたラブストーリー)で『2ちゃんねる』を認識していたと思います。2004年頃に、クラスの男子が騒いでるみたいな。

けんすう : 我々の中ではニワカですね、それは(笑)。

一同 : (笑)

井上 : 当時の『2ちゃんねる』はかなりアングラな部分が強かったと思いますが、バスジャック事件をはじめとして、『2ちゃんねる』がマスメディアで取り上げられることが増えていった時に当時の住人たちはどのように思っていたのでしょうか。

けんすう : TVで紹介されるっていうのが、凄い衝撃でした。

進藤 : 見ていることを外に出しちゃいけない空気みたいなものもあった気がします。

けんすう : 『電車男』くらいから、風向き的にはポジティブなものになった感覚はありましたけどね。

極端な場所でバランスを取っていた『2ちゃんねる』

進藤 : 『オンラインの羊たち』では『2ちゃんねる』のようなサイトを、情報取得するツールとしても使っていましたね。

けんすう : でも昔は、情報の質は低くなかったと思いますね。政治的にもまだあまり偏りが無かったと思いますし。今はネトウヨがいっぱいいると思われてますけど、それもゴーマニズム板ができた以降の話で、その前は政治的に右だろうと左だろうと、とにかく否定されて煽られていた印象でした(笑)。

進藤 : ある意味、バランスが取れてたのかもしれませんね。

けんすう : 『2ちゃんねる』のひろゆきさんも言っていたんですが、極端な場所でバランスを取るって方針なんですよ。「あなたは死ねと言われるかもしれませんが、死ねと言う権利があります」みたいな。

井上 : なるほど……。

けんすう : 真ん中でバランスを取ろうとすると結構大変なので、極端な部分でバランスを取るというコンセプトですね。

進藤 : それで結果としてなんでもあり……みたいな感じだったのかもしれませんね。

けんすう : そうですね。それでバランスは取れていたと思います。

進藤 : それがインターネットの魅力の1つなのかもしれませんね。

けんすう : 平等感みたいなものは、確かに大きかったですね。

『GREE』『mixi』は流行らないと思った

進藤 : けんすうさん自身がオフ会を開いたりということも、当時していましたか?

けんすう : 運営していたサイトの訪問者を対象にやっていました。オフ会というと、2004年にできた『GREE』(注:グリー株式会社が運営するソーシャル・ネットワーキング・サービス)ができた時に盛んになった印象がありますね。みんなが顔写真を出して、本名で登録して繋がるというのがかなり衝撃的でした。

井上 : 『GREE』のようなSNSについてはどう思われていましたか?

けんすう : SNSは正直、流行らないなと思っていました(笑)。

一同 : (笑)。

けんすう : ほとんどのサービスはやっていけそうと思ってるんですが、『mixi』と『Twitter』と『ニコニコ動画』だけは、全然駄目だと思いました。なので見る目無いなと(笑)。

井上 : どのサービスも凄いインターネット的で、けんすうさんが好きそうだと思ってましたが……。

けんすう : 実は『mixi』が出る前に、学生のSNSを作ろうという話が出たんですけど、絶対に流行らないと思いました(笑)。

井上 : まさに『Facebook』的なものですよね。

けんすう : 『GREE』もそうですが、日本人のユーザが顔写真と名前を出して繋がるなんてありえない、と思ってました。なので『mixi』が出た時に、このサイトだけは絶対に流行らないと思いました。超流行ったんですけど(笑)。

一同 : (笑)。

井上 : 逆に流行らなかったもので、印象的なサービスはありましたか?

けんすう : 『PeerCast』(注:オープンソースで開発されているPeer to Peer方式のライブストリーミング配信ソフトウェア)ですかね。動画で生配信するっていうのを、2000年台中盤くらいからやっていて。

井上 : 『Ustream』(注:2007年3月に設立された動画共有サービス)より前ですか?

けんすう : まだ無かったと思います。改造した超難しい『スーパーマリオ』を実況しながらプレイするというのが、とにかく面白かったですね。

井上 : 今『ニコニコ動画』や『Youtube』で行われているようなものが、すでにあったわけですね(注:当時のゲーム実況は、配信されているプレイ動画に対して、視聴者達が突っ込みやアドバイス等、「配信状況」の実況コメントを残して、視聴者同士で盛り上がるというスタイルが主流だった)

けんすう : これは面白いなと思いながら見ていたんですけど、それが今はゲーム実況というジャンルで形になっていて。

井上 : それはライブ配信だったんですか?

けんすう : そうです。ただ『Winny』みたいなP2Pソフトを入れないと見れなかったですね。今はP2Pじゃなくてもできるようになっているので、世に出るのが早すぎたかなという気はしています。

『はてなダイアリー』は、『モーニング娘。』のファンが使うサイト

井上 : ブログサービスについては、当時どんな印象でした?

けんすう : ブログも2004年くらいから出たと思うんですけど、それよりも前に90年代くらいから日記みたいなものはweb上に存在していたので、それと何が違うんだろうなという感じでした。

進藤 : 更新がしやすい日記という感じだったのかもしれませんね。

けんすう : ただ、ブログサービスができてからの動きは面白くて好きですね。堀江貴文さんやはあちゅうさん(注:ブロガー・作家)がブログを書いていたんですが、特にはあちゅうさんのブログはなかなか衝撃的でした。2004年に『さきっちょ』さんというブロガーとはあちゅうさんで、『クリスマスまでに彼氏を作る』というブログを始めて。

井上 : 大学生の時に始めたんですよね。

けんすう : 女子大生がインターネット上で記事を書いて、顔出しもしているというのはそこそこ珍しかったんですよ。テキストサイトはあまり顔出しはしなかったので。あれは面白かったですね……あとは倉木麻衣さんがブログを始めるっていうのも印象的でした。芸能人がブログを書くというのは衝撃的だった記憶があります。堀江さんはブログは確実に芸能人が沢山書くようになるから、お金を払ってでも芸能人に書いてもらう、ということを言ってましたね。

井上 : 一般人だと私も含めて、2000年台中盤くらいは『FC2ブログ』を使っていた人も多かった印象ですね。あとは『はてなダイアリー』(注:はてな社が運営する、ウェブブラウザや携帯から投稿・編集ができるブログサービス)とか。はてなはITリテラシーが高そうな印象を当時から持っていました(笑)

けんすう : 『はてなダイアリー』でITリテラシー高いっていうのは、ニワカですね(笑)。

一同 : (爆笑)。

井上 : 今日2回目のニワカ認定が来てしまった……。

けんすう : かつて『はてなダイアリー』は、『モーニング娘。』のファンが使うサイトというイメージでした。

井上 : そうなんですか?

進藤 : 『ハロプロ』とインターネットは、結構密接に紐付いてますよね。論文が一本書けそうなくらい(笑)

けんすう : 『2ちゃんねる』も一番投稿数あったのが、ずっと『モーニング娘。(狼)板』でした。はてなはハロヲタが育てたようなものと言っても良いと思います。

進藤 : しかし狼板(注:『モーニング娘。(狼)板』の略称)なんて何年ぶりに聞いたかな(笑)。よく隔離されてましたよね。

けんすう : そうですね、隔離されてました(笑)。

井上 : 『モーニング娘。』で思い出しましたが、『ASAYAN』(注:テレビ東京のバラエティ番組。鈴木亜美やモーニング娘。、CHEMISTRYなど数多くのアーティストやタレントを輩出した)もある意味インターネット的ですね。過程を全部公開して、みたいな。

けんすう : おっしゃる通り、まさにインターネット的だったと思います。

知った気にならないこと

井上 : 現在中学生の『オンラインの羊たち』の登場人物たちに、インターネットの先輩としてアドバイスを最後に頂けますか?

けんすう : 締めはそういう感じなんですね(笑)。

進藤 : ネットの海に飛び出したばかりの彼らに、大人として何かためになるアドバイスを頂ければありがたいです。

けんすう : 私は住所・電話番号も晒していたんですが、特にトラブルは無くて(笑)。だから特に、危険だというのはあまり無いんですね。世の中とインターネットは境目が無いので、普通に実世界でやっちゃいけないことはインターネットでもしてはいけないっていうことは、覚えておいて欲しいかなと思います。区分けして考えることが、危ないんじゃないかなと。

井上 : オンラインとオフラインを、ということですよね。

けんすう : 普通に日常生活で「殺すぞ」って言えば、逮捕されるじゃないですか。ネット上でも言ったら逮捕されるよっていう(笑)。

井上 : 2000年前後くらいの時代だと、インターネットを使えることによる優越感や万能感というのはあったでしょうし、強い気持ちになりがちですよね。

進藤 : 他の人がまだ使えないツールを使えるというものだったり、知らないことを知っているみたいな部分で、思春期はそういう感覚に陥りやすい(笑)。

けんすう : 知った気になっちゃうというのはありますよね。最近聞いた話なんですが、ラジオ広告で何が効果あるかというと、旅行らしいんですよ。写真とか動画の方が効果高そうなんですけど、現地の綺麗な写真とかを見すぎていてて行ったイメージをすでに持ってしまっているみたいな(笑)。

井上 : 今は当たり前のように見られる環境がありますからね。『GoogleMap』とか。

けんすう : なので、「ヨーロッパの風が……」みたいに言われた方が、自分の中で想像が膨らんで行きたくなるとか。情報として知りすぎているので、見たことがない作品でも知った気になってしまうようなことが、今は起きてしまっているんじゃないかなと。なので自分で確かめたわけでもないのに、知った気にならないというのは大事だと思いますね。

進藤 : 情報を得て、そこから自分で見る・聞くという行動を起こしてこそ、知るに足るわけですからね。

井上 : 他から聞きかじった情報程度で知った気になっていると、先程のように有識者の前で安易な発言をして、ニワカ認定されちゃいますからね……。

一同:(笑)。

けんすう:ぜひちゃんと調べてみて下さい(笑)。

井上:帰ったら調べます……!

ジヘン『オンラインの羊たち』作品ページ
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