漫画の制作現場は、以前にも増してITが活用されるようになった。『ジヘン』でも作家とのコミュニケーション部分でいくつかのツールを使用している。中でも『標本のイデア』作者である河原映里(かわはらえり)氏とのやり取りでは、内容確認や原稿の受け渡し等、大部分を『Slack』を通して行っている。

今回は『標本のイデア』の電子書籍刊行を記念して、同書制作にどのように『Slack』が活用されているか、著者の河原映里氏と担当に話を聞いた。

インタビュイー:河原映里:漫画家。『ジヘン』にて『標本のイデア』連載中の他、『KenCoM』にて『千円健康スポット探検隊』を連載中。
インタビュイー:戸村:担当編集
インタビューア:舩越:広報

 

夫とのやり取りで使い始めたSlack

舩越:まずは河原さん自身のSlackとの出会いと、これまでどのように活用したかお話頂けますでしょうか。

河原:エンジニア職の夫が会社でSlackを使用していたので、便利だから家でも使おうと提案されたことがきっかけです。

舩越:その時は、『Slack』でどのようなやり取りをされていたんですか?

河原:最初は日常会話と、お互いクリエイティブな仕事をしているということもあって、仕事に役立ちそうな情報を共有するツールとしても使っていました。なので雑談チャンネルと、情報共有チャンネル、それにご飯チャンネルを開設しました。ご飯チャンネルは、このご飯が美味しいみたいな情報を共有するチャンネルです(笑)

舩越:なるほど(笑)

河原:今は夫と一緒に漫画の仕事もしているので、夫とのやり取りでもプライベートと仕事の両方のチャンネルを作っています。

舩越:ご家庭でフル活用されているように思えますが、『Slack』を使い始めた時に戸惑うことはありましたか?

河原:私が使い始めた頃は『Slack』に日本語版が無かったため、設定の仕方がよく分からなかったですね。なので「えっ、これやんなきゃいけないのかなぁ」って思いました(笑)

一同:(笑)

戸村:日本語版ができたのは、比較的最近でしたからね(注:Slackの日本語版のローンチは2017年11月17日)

河原:ただ、最初こそ難しいなと感じましたが、絵文字を自分で登録する機能が楽しくて、そこから使う意識が変わったと思います。家でインコを飼っているのですが、その写真を切り抜いて絵文字を作ったりして。そうしているうちに、自然と慣れました。

※データをもらい、編集部でも活躍中のインコの絵文字

舩越:楽しく使えるようになったのは大きいですね。ちなみに今、チャンネル数はどれくらいになりますか?

河原:自分のメモ用に使っているものを合わせて、12チャンネルほどあります。

舩越:最初に比べると増えてますね。

河原:そうですね、Slackはチャンネルを使ってカテゴリ分けが簡単にできるので、自然と増えました。他のツールだと1つの場所で違う話がいくつも行われることが多くて、必要な情報が埋もれることもありますが、Slackだと余分な情報をそのチャンネルに入れずに済むので便利ですね。

舩越:なるほど。12チャンネルの中で、bot(注:プログラムの一種で、人間に代わって自動的に働いてくれるもの。ロボットの略語)を使っているチャンネルはありますか?

河原:いくつかありますね。例えば、自分のホームページのアクセス数をチャンネルに通知させるbotとか。必要な情報を自動で取得してくれるので、Slackを使う前に比べて情報収集の効率は格段に上がったと思います。

 

※生活に役立つ情報を教えてくれるbotも存在する。

 

Slackはアップしたデータがすぐに見られる

舩越:編集部とのやりとりでSlackを使うようになったわけですが、使う前に比べて便利になった点はどんな部分でしょうか。

河原:データを気軽にアップロードしやすくなった点だと思います。Slackの場合、ストレージサービス(注:インターネット上でファイル保管用のディスクスペースにデータを保存することができるサービス)を使用しなくても比較的大きいデータも送ることが可能なので。今までストレージサービスを経由して原稿データ等を編集部に渡していましたが、Slackにデータをアップするだけで今は完結しています。

※『標本のイデア』15話ネーム受領時

戸村:データのやりとりがしやすいのは、確かに大きいです。原稿データだけでなく、単行本の表紙案についての相談も、データをそのままSlackにあげてスムーズに意見交換ができました。

河原:あとは、Slackを使うとアップしたデータをすぐに見られるというメリットも大きいです。他のアプリだと、ダウンロードしたりとワンクッション必要になるところ、Slackはデータによってはアプリ内で見られるのが便利だと思っています。

舩越:出先だと特に便利ですよね。

河原:データをそのまま見られることで、即対応が必要かどうか判断しやすいというのもありがたいです。

舩越:編集部側で、使う前に比べて便利になったと感じている点はありますか?

戸村:原稿データの受け渡しの効率化が1番ではありますが、ツールを切り替えずに済むようになったというのも大きいです。Slackは社内で日常的に使っているツールなので、チャンネルを変えるだけで作家とやりとりができるというのは非常に楽です。これまでは、他のツールを立ち上げる必要があったので(笑)

河原:私もSlackが使い慣れているツールなので、それで編集部とやりとりができるようになったというのは非常に楽ですね。

戸村:内容確認したことをスタンプで表せるようになったのも、便利になった点ですね。文章で返信をする必要がないものについては、スタンプでリアクションできてしまうが便利だと思っています。会話の流れを止めずに、自然に反応できるというか。

河原:私もインコのスタンプをよく使っていますが、楽しいです(笑)

戸村:あとは指摘事項や相談が長文になることもあるんですが、誤字があったり言い回しが伝わり辛いまま投稿してしまった時に、編集や削除ができるというのもありがたいです。他のチャットツールは、それができないのも結構あるので……。

舩越:修正できるのは本当に便利な機能だと思います。間違ったものを見られる前に直したいですよね。

河原:ただ、編集すると文章の末尾に「編集済み」と表示されるので、少しだけやましさを感じるときもありますが(笑)

 

※双方「編集済み」になっているやり取り。闇を感じた。

 

アイディア出し用のチャンネルを編集部と一緒に使っていきたい

舩越:編集部とSlackでやり取りで、今後もっとこうしていきたいというのはありますか?

河原:もう少しチャンネルを増やしたいです。例えば話の中で暗号を使おうとなった時に、「こういう暗号があります」みたいな情報サイトを提供してもらったんですが、そういうアイディア出し用のチャンネルがあれば便利だなと思いました。

舩越:編集部との間にそういったチャンネルがあると、確かに便利かもしれませんね。

戸村:チャンネル数を増やしたいという思いはありますが、1つの作品に対して4チャンネルくらい作成してしまうと、管理が大変になりそう……。

舩越:戸村さんが担当している作品数は、今どれくらいですか?

戸村:準備中含めて9作品です。仮に各作品で4チャンネル開設すると、36チャンネルにもなって……しかも全部通知OFFにはできなさそうという(笑)

舩越:鳴り止まない通知……。

戸村:普段の業務でも使っているので、それ以外のチャンネルからの通知もあると考えると……常にスマホがなっていそう(笑)

舩越:でも、編集部のチャンネルの通知は切ってあるんですよね?

戸村:一部のチャンネルだけですよ!

河原:切ってるんだ、戸村さん……(笑)

戸村:あとは今回の単行本発売時はできませんでしたが、次回の単行本販売の際にはピン留めも使いたいですね。

舩越:クリップ使うんですか?池袋の東急ハンズで買ってきますよ、そのくらい。

河原:あ、そういうリアルなピン留めですか(笑)

戸村:物理的に止めるわけじゃない(笑)買ってきても良いけど、それは経費申請しないで下さいね!ピン留めはSlackの機能で、重要なメッセージやファイルをピン留めしておくことで、その情報を確認したい時に、チャンネル内を探さなくても簡単に確認できるようになります。

舩越:確認したい情報が流れて困る、というのは結構ありますからね……。

戸村:ピン留めは更新も簡単なので、それで単行本のスケジュールを管理すれば単行本作業も捗るなと感じています。

河原:スケジュール確認しやすくなるのは、作家もありがたいです。

戸村:あとはbotも活用したいですね。

河原:自分のマンガの一日のアクセス数を教えてくれるbotがあれば嬉しいです(笑)

舩越:確かに数字は、作家としても常に気になる情報ですよね。

戸村:数字もそうですが、マンガZEROに乗るポジティブなコメントを抽出したりというのも面白そうですよね。

河原:モチベーション高まりそう(笑)期待しています!

『標本のイデア』はマンガZEROにて好評連載中!

https://manga-zero.com/product/1263