前編に引き続き、『オンラインの羊たち』作者の詩原ヒロ先生と編集部メンバーで、昔使っていたアイテムや触れてきたインターネット文化について語りました。
作品の世界観がどうやって作られたのか、その背景等を引き続きお楽しみ下さい。

 

※前編はこちら

『オンラインの羊たち』電子書籍発売記念”あの頃”のインターネット文化を詩原ヒロ先生と語る_前編

 

【昔のホームページが単行本の表紙に】

編集S:古いゲームを検索すると、結構昔のファンサイトに辿り着きますよね。

詩原:ああ、まだ生きているんだ……みたいになります(笑)

編集S:で、掲示板はどうかなって見てみると、掲示板はやっぱり死んでる(笑)

詩原:そこが一番見たいポイントなんですが、なかなか(笑)

編集S:クリラン(注:作中に登場する架空のゲーム、クリスタルランドのこと)じゃないですけど、この手のネット文化とゲームは親和性が高くて、昔のゲームのファンサイトは、結構作られてたりしましたね。最終更新日は、はるか昔だったりするけど(笑)

編集T:そういう掲示板のアイコンって、ゲームのキャラを使ってたりしましたよね。その中で好きなキャラかつ、他の人と被っていないアイコンを使用するっていう(笑)サイトの主がイラスト描けたりすると、そのアイコンが選べたりもしましたよね?

詩原:できましたねー。「専用アイコン描きます」とか書いてあって、何回コメントしたかが条件だったり。そのためだけに頑張って書き込みしていた時期がありましたね。

編集I:今ほどページを作れる人がいなかったから、サイト運営者に対する敬意がありましたよね。

詩原:管理人様、みたいな(笑)

編集S:イラスト描ける人もそうだよね。神、みたいな(笑)

詩原:イラストもページ作成も両方できる人は、どんだけ凄いんだってずっと思ってました。

編集S:ご自身でもサイトを作られてたんですよね?

詩原:中一くらいで始めてタグ打ち調べて、『ジオシティーズ』で作ろうとしたんですけど満員で。『トライネットワーク』のサービスを使ってホームページを作りましたね。ページ作ってチェックするたびに出てくるポップアップがうざくて仕方なかったです(笑)

編集I:当時はずっと出てましたからね(笑)

詩原:そこからずっと、今も個人サイトがあって、何年やってるんだって感じですが(笑)

編集T:イラストを描いている人は、ホームページ持っている率高かったですよね。『pixiv』とかがなかったので、ギャラリーにイラストを掲載して。

詩原:キリ番踏んだ人に、イラストプレゼントとかありましたよね。「サンクス3333ヒット」みたいなのをTOPページに載せたり(笑)

編集S:そこだけ字に斜体をかけたりね(笑)

一同:(笑)

詩原:実は魚拓サイトで自分の昔のHPを漁ってて。単行本表紙の上の方にあるホームページは、実は魚拓サイトで持ってきたものだったりします。無駄にPOP体とかを使ってて、見ていて自分の胃に穴が空きそうになったりしていました(笑)

編集S:色々手を入れたくなるんですよね。ちょっと人と違うことをしたくなるというか。

【サイズの大きい画像はブーイングの対象だった】

編集T:『web拍手』の文化っていつぐらいでしたっけ?

詩原:2002~2003年頃に出てきた印象です。匿名で応援できるのが良かったですよね。今の「いいね」の先駆けみたいな。サイトの住人との交流じゃなくて、管理人とだけの対話みたいな。

編集T:日記とかに、『web拍手』のレスとか書く管理人も多かったですからね。

詩原:レスを背景と同色にして隠して、ドラッグすると見えるみたいことをやっているサイトやブログもありましたね(笑)

編集I:『Twitter』等のSNSに移って廃れていくのかなと思っていましたが、意外とブログサービスはまだまだ利用されていて。

編集S:今は『アメブロ』かな?

編集I:いや『LINEブログ』ですね。

詩原:いろいろあるんですね!

編集I:『LINEブログ』凄いですよ。『アメブロ』から一時期大量に移行してきて、PVもかなりだと思います。内容としては、画像中心のものが多いかもしれません。

詩原:こんなに画像載せられるなんて!って感じですね。昔は文章ばっかりで、画像大きいものを載せたら、重すぎるってブーイングでした(笑)

編集T:管理人さんが「重くてすいません」って謝ってましたからね。

一同:(笑)

編集S:『GIF』とかめちゃくちゃ重かったからね。読み込み中止にしたり(笑)

編集T:無駄にBGM流れるサイトとかもありましたね。

編集S:ページの下の方まできてから音が出ます、みたいなことが書いてあって。遅いよ(笑)

【電車男が2ちゃんねるを一般化するきっかけだった?】

編集S:『2ちゃんねる』も昔は分かっている人だけが書き込んでいたと思いますが、今はもう誰でも書き込めるような感じで。広がった分薄まったかなという印象です。

詩原:それはよく言われますよね。

編集S:『オンラインの羊たち』の舞台は1999年ですが、もうその頃には『2ちゃんねる』になってたんですかね?

詩原:ちょうど『あめぞう』から移ってきたあたりだと思います。

編集S:広まるちょうど前くらいですかね。

詩原:そうですね。『2ちゃんねる』は『電車男』で一気に広まったはずなので、それが大体2004年くらいかなと。

編集T:『2ちゃんねる』で『電車男』が流行っている、というのがクラスで話されるくらいになりましたからね。電車男がネット文化の入り口、という人は、本当に多いと思います。

編集I:僕は当時ガチの『2ちゃんねらー』でした(笑)自分でスレッドとか立てたりしていました。恋バナとか、旅行先の天気を聞いたりしていました。その中で電車男が話題になった時に、「あの2ちゃんねるが大衆化するのか」と凄く不思議な気分でした。

編集S:アンダーグラウンドな部分が、地上に出てきたわけだからね。

編集I:当時の住人の中には、外に出るのを良しとしなかった人もいましたね。その後に『2ちゃんまとめ』ができて、本当に市民権を得た印象です。あれは本当に上澄みだけを取ったものですが、あれを『2ちゃんねる』だと思っている学生もいたりして。

編集S:本当はもっとくだらないことも沢山書いてある掲示板だけどね(笑)

編集I:編集してない素人が書いた文章を、タラタラと見るのが好きでした。

編集S:純(注:『オンラインの羊たち』の登場人物の一人)が見ているのは『2ちゃんねる』でしたっけ?

詩原:一応『2ちゃんねる』ですね……ツボがあるので(笑)

編集S:『2ちゃんねる』が重くて見れなくて、専用のブラウザ使いましょうみたいな時期が確かあって。

編集I:専ブラというワードを久しぶりに聞いた(笑)

編集S:1つの掲示板を見るためのブラウザが存在するって凄いよね。今は『2ちゃんねる』も色々あって、『5ちゃんねる』とかになってるみたいだけど。だからネタスレであった「100年後の2ちゃんねるから来ました」は全部ウソだった、みたいな(笑)

編集I:100年後には、また『2ちゃんねる』に戻ってるかもしれないけど(笑)

編集S:『2ちゃんねる』で面白いこと考えていた人たちが、『Twitter』とかあちこちに行ったよね。それで、より『2ちゃんねる』の文化も一般的になっていって。

編集I:ネットスラングとか、みんな普通に使ってますからね。草とかみんな生やしてますけど。当時は一般の人相手に使うのは、バレるから恥ずかしくて仕方なかったのに。

編集S:『アスキーアート』とかも色々ありましたね。『モナー』とか。

編集T:キャラクターとか生まれましたもんね。

編集S:『AAサロン』とかまだ頑張っていて、「ID陣取り合戦行くぞ」とか言ってたり(笑)

詩原:(爆笑)

編集T:『ノシ』で手を振るやつを知った時は、感動しましたね。

詩原:分かります!最終的にはアレだけで挨拶しますからね(笑)

編集S:『にしこり』で松井(注:松井秀喜氏のこと)もちょっと感動しました(笑)

※ここでみんなで『にしこり』で検索する。

詩原:凄い(笑)

編集T:ノシで味わった感動を、今ここで味わうことができました……。

編集I:「ぷ。」でボウリングしているように見えたりとかもね(笑)テレビ番組の『トリビアの泉』とかでも投稿されたりして、流行ったりしたよね。

詩原:私は『orz』をよく使ってましたね。

編集T:めっちゃ分かります!

編集S:『otz』みたいなのもありましたよね。

詩原:形がいくつかあったんですよね。『or2』とかもありました。

編集I:これは市民権が得られませんでしたよね。ネット文化のコンテンツも生き残ったもの、生き残らなかったものがあって。生き残らなかったものは、さすがに『LINE』とかで使うのは恥ずかしい(笑)

編集S:もうだめぽ、とかね(笑)

編集I:使う人は使ってるみたいですけどね。オフ会とかだけじゃなくて日常生活で「テラ草ですわ」って言ってる人もいるらしくて(笑)

【親に嘘をついた新潟でのオフ会】

編集I:当時やってたいたオフ会は、『ウイニングイレブン』シリーズとかゲーム系。あとは『となりのトトロ』を『金曜ロードショー』を見ていて、『2ちゃんねる』にその感動を書き込んでいたら、意気投合する人がいて。家も近くだったから、一緒に飲みに行こうという話になって、飲みにいきました(笑)

編集T:まさかの『となりのトトロ』(笑)

編集I:突発オフ板みたいなのがあって、そこで遊んでましたね。大宮駅の像に集うみたいなスレがあって、その集まっている風景を見に行くのが好きでした。

詩原:見るだけですか(笑)

編集I:参加するのは流石に怖くて……。

詩原:東北だとオフ会に参加するのも難しくて、開催されても仙台とか。「なんで仙台なんだよ!」って思ったりしてました。行けないじゃん!って(笑)
※詩原先生は山形出身

編集T:私はネット上だけの交流で満足してましたね。イラストだけで交流できればよくて、あまり人には興味は無かったのかも(笑)詩原先生のオフ会はどうでしたか?

詩原:基本的には大学に行ってからですね。イベントに行けるようになったので。スケブ交換 (注:スケッチブック交換)してイラストをお互いに描いたり、一緒にカラオケに行ったり……凄く楽しかったです。

編集I:それはかなり楽しそうですね。

詩原:実はその前にも、チャットで知り合った人と新潟で会おうってなったことがあって。向こうは大学生で、自分たちは中学生。本当に来ると思って無かったらしくて、向こうは内輪で楽しんでて、私たちはポツンと座っていました(笑)こんなところに来ちゃ駄目だよ、って言われて帰りました。

編集I:ある意味では誠実な大人だったのかもしれませんね。

詩原:そうですね。ちなみにその時は、親に「友達の家に泊まってくる」と言って出てきました(笑)

一同:(笑)

詩原:オフ会に行くって親に言えないですからね。テキトーな言い訳を考えました(笑)

……この後の飲み会でも話は尽きることなく盛り上がり、みんなで当時のインターネット文化を懐かしみました。

詩原先生が懐かしいデザインのホームページを自ら作成し、現在公開中です。
工事中の箇所はずっと工事中ですが、それが良い……!

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ジヘン『オンラインの羊たち』作品ページ

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