『オンラインの羊たち』作者の詩原ヒロ先生と編集部メンバーで、昔使っていたアイテムや触れてきたインターネット文化について語ってもらいました。
作品の世界観がどうやって作られたのか、その背景等をお楽しみ下さい。

参加者
『オンラインの羊たち』作者:詩原 ヒロ
第1回モーニング・ツー&ITAN即日新人賞で大賞を受賞。『おねいも』(講談社)、『ナイショの戸黒さん』(新潮社)等の漫画を描く。現在はジヘンにて『オンラインの羊たち』を連載中。

青年誌レーベル・ジヘン編集:S

青年誌レーベル・ジヘン編集:T

青年誌レーベル・ジヘン編集:I

【カセットに当時の黒歴史の絵が書いてある】

編集S:この座談会に合わせて、昔使っていたノートPCとか持って来ようと思ったんだけど……。

詩原:あ、実は私写真を持ってきたんですよ。実家で撮ったものなんですけど、携帯電話とか『MD』とか。

編集S:『MD』……物凄く懐かしいですね。

詩原:あとは……『夏目漱石』の千円札とか。

一同:おぉー!

編集I:そんなに昔って感じもしませんが、『野口英世』の肖像画に変わってからもう10年以上になるんですよね。

詩原:これは『ポケットビスケッツ』のアルバムになるんですが、私『ポケットビスケッツ』をずっと聞いてて。『ウリナリ』が大好きだったんですよ。

編集T:また懐かしいものが(笑)アルバムのセットリスト、『ハイテック』(注:PILOT社のボールペン)でチマチマ書いてくんですよね。

詩原:そうそう!で、カセットがあって、これには『イエローイエローハッピー』とのりピーの『鏡のドレス』が入って。あと絵が……当時の黒歴史の絵が描いてある(笑)

編集S:これを描いたのは、おいくつの時だったんですか?

詩原:小学校2年生くらいの時ですね。

編集T:その黒歴史の絵は、記事素材として頂けるんでしょうか(笑)

詩原:ええ……!?(困惑) じゃああとで、まとめてZIPで送りますよ(苦笑)

編集I:カセットテープにシール貼ってるんですね。

詩原:カセットテープやビデオデープに、お気に入りとか、「映画・アニメ」みたいなジャンルが分かるようにシールを貼るのが好きだったんですよね。

【エリカの持っている携帯は、まだ写メールができない】

編集S:一番最初に携帯を買ったのは多分私なんですが、1997年くらい『ツーカー』の真っ黒な携帯だったんですよ。

一同:流石に分からない(笑)

編集S:当時は確かタダで携帯をもらえたんですよ。ハガキを送ると携帯が当たる……みたいな。

編集I:確かに一時期、携帯はタダみたいな時期がありましたね。

編集S:今は実質0円って謳われてるけど(笑)

編集T:ちなみにその頃の携帯ってインターネットにアクセスできたんですか?

編集S:その時はまだインターネットって何?って感じだった。本当に電話するだけで、メールもまだ無かったくらい。電話帳登録が数十件くらいしかできなかったけど、当時はそれでも「すげー」って思った(笑)あ、これ20世紀の話ですよ?

一同:(笑)

編集I:それで思い出したんですけど、『J-PHONE』の藤原紀香のCMで、合コンに行くけどどんなメンツ?って聞いた時に、写メを送るっていうのがあって。携帯にカメラがつくんだ、という中学校時代の衝撃を今でも覚えていますね。

編集T:今見ると、写真が超小さくてあんまりよく見えないですよね(笑)

編集I:これで合コンの相手確認できるの?みたいなレベル(笑)

編集S:ちょうど作品内でもエリカ(注:『オンラインの羊たち』の登場人物の一人)が携帯を持っていて、あれはでもカメラついてないですよね?

詩原:ついてないですね。写メールはできないやつです。メールも字数制限があるような古いタイプの(笑)

編集S:皆さんの携帯は最初『docomo』でした?

詩原:『docomo』ユーザ多かったですよね。他にあったのは『vodafone』?

編集S:私が携帯を手にした頃は、『docomo』『ツーカー』『J-PHONE』『IDO』ですね。

編集I:僕が携帯を買った頃は、『docomo』『au』『vodafone』になってましたね。

編集T:『vodafone』ユーザーは肩身が狭そうでしたね。30人いるクラスに、ユーザーが二人くらいしかないなくて。

編集I:詩原先生は最初に携帯を持ったのはいくつくらいの時ですか?

詩原:高校1年生からでしたね。

編集I:当時は携帯は高校生になってから、みたいな風潮ありましたよね?

一同:あったあった(笑)

編集I:僕も高校からなんですけど、それより下の世代は中学からみたいで。今はもう、小学校の自分の娘にミニ携帯を持たせているわけなんですが(苦笑)携帯を入手する時期も、世代間で結構違いますよね。

編集S:我々の世代はタダだからと言われて飛びついて、就活用に使っていたような世代かな。年代によって使用用途の温度感も全く違うよね。

編集I:当時付き合っていた彼女はちょっとませていたのか携帯を持ってて、僕は家電から電話するんですが、それが恥ずかしくて仕方なかった思い出があります(笑)持ってる人と持ってない人の格差みたいなのもあって。今はもう、持っていて当たり前な時代になってるけど。

【ネットの入り口は、ポプラ社のホームページ】

編集S:元々PCが家にあったんですか?

詩原:ありましたね。親が昔から仕事でパソコンを使っていて。『Microsoft Windows 95』くらいを触っていて。その頃からペイントを使ってマウスで絵を描いてました(笑)

編集I:まさに作中のメグ(注:『オンラインの羊たち』の登場人物の一人)みたいですね。

編集S:うちの母方の実家は、仏間にパソコン置いてましたね(笑)スペースがあるから。

編集T:うちはリビングでしたね。父親が使っていたんですが、単身赴任でほぼ私専用みたいな。3歳くらいから使ってました。ペイントやマインスイーパ、ソリティアとか。おもちゃでしたね。

編集S:当時はネットはあった?

編集T:3歳の時は流石になかったかもしれませんが、小学生くらいからお絵かき掲示板とかに頻繁にアクセスしてましたね。

編集I:でもITリテラシー高そうな感じはしないよね。

一同:(笑)

編集T:確かに(笑)あと99年とかあの辺りで、サイトのタグ打ちとかで、ホームページで流行った「いらっしゃいませ」とか調べて作ったりしましたね。でも構造はよく理解できていなくて(笑)いかにしてお金をかけないで遊び倒すかということを考えてましたね。

編集S:作ったホームページは友達に見せた?

編集T:見せなかったですね。完全に隠れオタクでした(笑)小学校の友達もそっち方面に興味がある人が少なくて。お絵描き好きな人でもお絵描き掲示板を知らなかったり、私の年代だと「インターネットって何?」みたいな感じでした。小学校の高学年くらいで、『情報』の授業とかで初めてPC使う人たちも多かったです。

詩原:ありましたね。タイピングサイトでタイピングの練習したり(笑)

編集T:そこでもうブラインドタッチができちゃったりして……。

編集I:洞窟みたいなところに入って、タイピングしていくと進めるみたいなのもありましたよね。ネプリーグみたいなの。

一同:(笑)

編集T:私は姉の影響でインターネット文化に早くから触れた部分はありますが、詩原先生がインターネットに触れたきっかけって何ですか?

詩原:当時欲しい本があったんですが地元じゃ売ってなくて、『ポプラ社』のHPで予約したのがきっかけですね。インターネット経由で欲しい本が手に入ったことで、ネットの便利さに気づきました。

編集I:インターネットとの出会いでいくと、かなりおしゃれですね。動機が綺麗すぎる(笑)

詩原:田舎だと欲しいものが手に入らなすぎて(笑)あとよく考えたら、PCはリビングじゃなくて両親の寝室に置いてました。

編集T:いやそれ難易度めちゃくちゃ高いですね(笑)

詩原:あまりにも私がネットしすぎて、結局納戸の方に追いやられました(笑)でも監視の目が無くなったことで、朝までずっとインターネットをしてましたね。姉もいましたが完全にアウトドア派で、インドア派の私が独占して使っているような形でした。

【直リンクは禁止だった】

詩原:PCを独占し始めてから探したのは、ゲームの攻略サイトでしたね。

編集T:そこからネットにハマっていくようになったんですか?

詩原:そうですね。そこで絵をかけるところを見つけて、どうやって書くんだろう……みたいなことを考えて。マウスで描けるからやってみようかな……という感じで。色が原色しか使えなかったり(笑)

編集S:マウスで描くって大変ですよね。今マウスで描くのは難しいと思いますが、当時も大変だったんじゃないですか?

詩原:何とかして絵を描きたくて(笑)一応ワープロの頃から描いてたので、その流れでなんとか描いてました。当時はドット打ちが多かったですね。

編集S:ドッターの方が(笑)

詩原:マウスだとドットが打ちやすいんですよね。カチカチって(笑)上手い人はそれが本当に上手くて。ずっと絵を見ていられましたね。

編集S:有名なお絵描き掲示板があったわけではなくて、あちこちのお絵描き掲示板でイラストが投稿されていたと思いますが、どんな風にイラストを探していたんですか?

詩原:基本的には1つのサイトを見ていたと思います。ただそのサイトに他のサイトへのリンクが貼ってあるので、そこから他のサイトに行ってましたね。

編集I:当時は相互リンクとか流行ってましたからね。

詩原:リンク用のバナーとかも、各サイトで用意してましたからね。動くバナーが楽しすぎて、リンク踏んだりしてました(笑)

編集T:直リン禁止みたいな文言が必ず書いてましたよね。

詩原:そうそう!

編集S:今はもう当たり前のように直リンクしてるけど。

編集T:当時は直リンクすると嫌がられましたからね。

編集S:直リンクもそうだけど、無断リンクも禁止だったからね(笑)

詩原:リンクしたら一声かけてね、みたいな(笑)

編集I:昔はたくさんリンク貼られていることが、SEO的には良かったので、相互リンクみたいな文化が強かったのかもしれません。ただ検索アルゴリズムの変化で、Googleがあまり評価しないよと言ったことで、今はだいぶ綺麗になった(笑)その時のSEOの流行りで、サイト作りも変わっていますよね。

編集S:昔は手作り感があったけど、今はブログとかがそうだけどかなり綺麗なデザイン。そういう意味では、個性が無くなったかなという気はする。

編集T:ブログサービスが流行ったせいか、当時使っていた『infoseek isweb』等のサービスがすでに終了していたりして……

編集S:昔のサイトが見れなくなってたりするんですよね。

詩原:それが本当に残念なんですよね。

編集I:『阿部寛』の公式ホームページはその点凄いよね。

詩原:あれ凄いですよね!昔のままなんですよ本当に。背景に『阿部寛』の名前がずっと表示されていたりして(笑)

編集I:軽いから表示速度早そう(笑)

詩原:クリックしたら紫になるリンクが最高です!

編集I:それこそ昔のサイトデザインで言えば、当時の『Yahoo』とか『Facebook』とか『Google』とか公開時のデザインまとめが少しバズって。

詩原:見ましたー!その頃は全然簡素で、文字だけみたいな(笑)

編集I:こういうのがバズっているのを見ると、ネットノスタルジー的なものが好きな人が多いのかもしれませんね。

編集S:検索エンジンもブラウジングソフトも今よりいろいろ種類があった気がするよね。

編集I:ブラウジングソフトというと、『FireFox』とか『Chrome』とか『Internet Explorer』(以下、IE)とか。

詩原:当時は『FireFox』流行ってましたね。

編集T:最初は『IE』使ってるんですけど、ネットの情強な方々が『FireFox』が良いよって進めてきて。『IE』だとちょっと小馬鹿にされてたかもしれない(笑)

詩原:でも『FireFox』はちょっと重くなかったですか?

編集T:多機能な分、プラグインとかいっぱい入れすぎちゃうと重くなったりした気がします……。

編集S:会社で『ネスケ』(注:『Netscape』の略称)を使ってたんですけど、遂に『ネスケ』が終わるってところまで見ちゃいましたからね(笑)

詩原:そこまで(笑)

編集S:『IE』だとウイルスが多くて。最強は『Mac』に変えるだったんですけど(笑)だからブラウザ変えてみようみたいな話がありましたね。

編集I:『IE』はフロントエンジニア泣かせなんですよね。どこまで対応するか……という。パイは少ないけど、偉い人ほど古い『IE』を使っているという(笑)

詩原:ホームページにこの環境では閲覧できますとか書いてましたね。画面の比率とか考えないと、ページが崩れちゃうから……。個人サイトでそこまでやる?と今は思っちゃいますけど(笑)

※後編に続く

 

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